誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか
ジョージ・エインズリー
山形 浩生
NTT出版
2006-08-30
Amazonからおすすめメールが来ていたのだが(たぶん山形浩生さんの訳本だからだろう)、あまりタイトルに興味を持たなかったので、ほっていおいたら、友人から強く勧められて読んでみた。とりあえず、大体の論旨を理解するべくななめ読みしたが、なかなか興味深い内容だったと思う。特に、幅広い学問分野を横断的に捉えて、人間の行動科学の新しいパラダイムを切り開こうとする意欲に満ちた著作である点は、評価できると思う。
まず、人間の行動科学のさまざまな分野のサーベイは、非常に興味深いと思う。特に、「効用主義」と「認知主義」の切り分けは、目新しいものではないとしても、非常に広範にサーベイしているので、さまざまな考え方の違いを整理するのに非常に役立つものだと思う。その上で、著者は新しい考え方を提案している。
この本で展開されている基本的内容は、1) hyperbolic discount rateによる人間の意思決定の動学的不整合性、2) 個人内の異時点間に報酬を受け取る主体の繰り返しゲーム、という2つの要素によって、人間の不合理に見える行動を説明できるというものだと思う。ここまで要素がはっきりしているなら、特定のモデルを提示して具体的に説明できることを示して欲しい気もするが、でも、なんとなく言いたいことは分かる気がする。
ちょっと考えてしまったことは、繰り返しゲームのみでも(特殊ケースではあるが)意思決定の動学的不整合性は出てくるような気がする。Hyperbolic dicount rateは、非常に魅力的な仮定ではあるが(にもかかわらず、なぜ、通常はexponential discount rateが仮定されるのかは説明されている)、必要不可欠な要素かどうか検討が必要であると思う。
ただ、第2部の前半くらいまでは言いたいことはなんとなく分かったが、第3部は何を言ってるのかあまり良く分からなかった。時間的な余裕が出来たら、もう一度読んでみたい。
ここで提案された人間行動の説明は、「効用主義」なんだろうか?「認知主義」なんだろうか?という、素朴な疑問は湧いてくる気がする。
行動科学の専門家(かな?)による批判的な書評が
こちらにある。